製品知識
ノイズフィルタの選定

ノイズフィルタの選定方法についてはフローチャートもご覧ください。

(1)定格電圧

使用できる最大の線間電圧(実効値)を規定したものです。
但し、実際にはノイズフィルタ内部に使用している部品の定格電圧が高いため、ノイズフィルタの定格電圧を上回る電圧であっても問題なく使用できる場合があります。
例えば当社の定格電圧AC250Vのノイズフィルタは電源電圧の変動を加味した最大電圧としてAC275Vまで使用可能です。
また、ノイズフィルタによっては定格電圧とは別に、使用最大電圧が仕様として規定されている場合があります。
なお、定格電圧(使用最大電圧)より低い電圧での使用は問題ありません。例えば、定格電圧がAC250VのノイズフィルタはAC100Vのラインでも使用することができます。

電源周波数については、AC電源ライン用ノイズフィルタは基本的に商用周波数(50Hz/60Hz)での使用を想定した設計となっております。
400Hzなど高い周波数での使用は内蔵しているコンデンサの発熱などの問題がありますので、当社までご相談ください。
なお、AC電源ライン用ノイズフィルタはDC電源ライン用としても使用できます。

(2)定格電流

連続的に流せる最大の負荷電流(実効値)です。但し、周囲温度が高い場合には負荷電流のディレーティングが必要です。
図2.2.1に当社製品のディレーティング特性例を示します。

図 2.2.1 ディレーティング特性例

この例では、最高周囲温度が75℃になる場合には、負荷率約60%(定格電流の約60%)以下で使用すれば良いことになります。
なお、ノイズフィルタは短時間であれば定格電流より大きな負荷電流(ピーク電流)を流すことができます。一般的なスイッチング電源などの突入電流(~40A又は、定格電流の10倍,単発,数ms程度)については特に問題ありませんが、ピーク電流の持続時間が長い場合や、繰り返しピーク電流が流れるような場合には、動作条件を確認したうえで個別に使用可否を判断する必要がありますので、当社までご相談ください。

(3)試験電圧(耐電圧)

耐電圧試験の際に印加する電圧値です。
耐電圧試験は、ノイズフィルタの端子(ライン)と取付板(アース)間に高電圧を短時間印加して絶縁破壊などの異常が生じないことを確認するものです。
AC電源ライン用のノイズフィルタの場合、試験電圧はAC2000VあるいはAC2500Vが一般的です。

耐圧試験時にはライン-アース間に高電圧を印加しますので、実使用時より大きな漏洩電流が流れます。受け入れ検査などで耐圧試験を実施される場合には耐圧試験装置のカットオフ電流を適切な値(仕様に記載のカットオフ電流)に設定してください。
接地コンデンサの容量が特に大きな一部のノイズフィルタについては、AC印加では漏洩電流が大きくなり過ぎるため、試験電圧をDC(直流)としている場合があります。

(4)絶縁抵抗

端子(ライン)と取付板(アース)間など、絶縁されている端子間に規定の直流電圧(通常DC500V)を印加した時の抵抗値で、絶縁の程度を示す指標の一つです。直流電圧の印加によりコンデンサや樹脂ケースなどの絶縁材料に流れる微少な電流を測定して、絶縁抵抗を求めます。

(5)漏洩電流

AC電源ラインに接続したときにノイズフィルタの接地端子からアースへと流れる電流です。
一般的に、接地コンデンサの静電容量を大きくするとコモンモードノイズの低減効果が高まりますが、同時に漏洩電流も大きくなります。
漏洩電流が大きいと漏電ブレーカがトリップしたり、ノイズフィルタが正しく接地されていない場合には感電事故につながる恐れもありますので注意が必要です。

各電源ラインからアースへ流れる電流(I)は以下の式で表され、これが漏洩電流計算の基本になります。

I = 2πfCE

(6)直流抵抗

ノイズフィルタの入力-出力間の抵抗値(往復分)です。
大部分はコイルの巻線抵抗ですが、コイルと端子の接続部分の抵抗なども含まれます。ノイズフィルタで生じる電圧降下は以下の式で表されます。

電圧降下 = 直流抵抗 × 負荷電流

なお、製品によっては抵抗値ではなく、定格電流を流したときの電圧降下を仕様規定しているものもあります。

(7)温度・湿度

  1. 使用温度

    使用時(通電時)において、製品の仕様を保証できる周囲温度範囲を規定したものです。周囲温度が高い場合には負荷電流のディレーティングが必要です。

  2. 使用湿度

    使用時(通電時)において、製品の仕様を保証できる周囲湿度範囲を規定したものです。結露が無いことが前提になります。

  3. 保存温・湿度

    非通電状態において、性能に劣化を生じさせることなく保存できる周囲温度・周囲湿度の範囲を規定したものです。湿度につきましては結露が無いことが前提になります。

(8)回路構成

ノイズフィルタの回路構成例を以下に示します。

  1. 単相1段フィルタ

    図 2.8.1 単相1段フィルタの回路構成例

    単相用ノイズフィルタの標準的な回路構成です。
    LとCYがコモンモードノイズを低減し、Lの漏れインダクタンスとCXでノーマルモードノイズを低減します。
    Rはコンデンサの放電用抵抗です。

  2. 単相2段フィルタ

    図 2.8.2 単相2段フィルタの回路構成例

    減衰特性を高めるためにチョークコイルを2段に配置した回路構成です。
    1段フィルタと2段フィルタの減衰特性比較例を以下に示します。

    図 2.8.3 1段フィルタと2段フィルタの減衰特性比較例

(9)安全規格

  1. 安全規格の概要

    国際規格には、電気分野に関するIEC規格と、非電気分野を扱うISO規格があります。

    IEC(International Electrotechnical Commission)

    電気分野に関する規格の標準化機構で、スイスに本部があります。
    最新の科学技術に基づく電気の技術基準としてIEC規格が発行され、これを基準に各国が安全規格を作成します。

    CISPR(Comite International Special des Perturbations Radioelectriques =International Special Committee on Radio Interference)

    IECの特別委員会で、無線障害の原因となる妨害波に関し、許容値と測定法などの規格を統一する目的で設立され、EMC(Electoro Magnetic Compatibility)電磁環境両立性の規格作成委員会があります。

    欧州規格
    EN規格(Europaische Norm=European Standard)

    EN規格はIEC規格やCISPR規格を基準に作成されており、ほとんど同じ内容になっています。
    規格番号も関連付けられています。

    (例:IEC939 => EN60939)

    EN規格にもとづく、欧州の認証機関の一例
    VDE ドイツ
    TUV ドイツ
    DEMKO デンマーク
    SEMKO スウェーデン

    規格分類番号 関連規格
    EN50000シリーズ 一般の欧州規格
    EN55000シリーズ CISPR規格
    EN60000シリーズ IEC規格

    ENEC(European Norm Electrical Certification)

    EU全加盟国、EFTA(欧州自由貿易連合)、および東欧諸国への製品流通をスムーズにするヨーロッパの安全認証マークです。
    ENECマークを取得した電子部品は加盟国間での申請手続きを必要としませんので、流通する国ごとの認証が不要となる利点があります。
    照明器具、トランス、情報処理機器、スイッチなどの製品がENECの対象となっており当社製品においては、ACライン用ノイズフィルタが認証されています。

    EU加盟国 ドイツ、イギリス、イタリア、デンマーク、他24ヶ国
    EFTA アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン
    東欧諸国 ウクライナ、エストニア、ベラルーシ、モルドバ、ラトビア、リトアニア

    北米

    UL(Underwriters Laboratories Inc.)

    1894年に火災保険業組合により設立された試験機関です。さまざまな電気製品の認証試験を実施しています。

    CSA(Canadian Standard Association)

    1919年に設立されたカナダにおける非営利の標準化団体です。カナダの各州法により、公共の電源に接続して使用する電気機器は、CSA規格に適合した機器でなければなりません。

    UL アメリカ
    CSA カナダ

    米国とカナダは、MRA(Mutual Recognition Agreement)を締結しているため、相互認証が可能です。ULにおいてカナダ規格(CSA規格)を認証された場合、またはUL、CSAを認証された場合、以下の認証マークとなります。

    CSA
    UL,CSA
  2. ノイズフィルタの安全規格

    製品ごとに取得している安全規格が異なりますので、ご検討の際は取得規格をご確認下さい。

    IEC939 国際規格 IEC
    EN60939 ヨーロッパ EN
    UL1283 アメリカ UL
    C22. 2 No.8 カナダ CSA
  3. 中国CCC認証について

    ノイズフィルタはCCCにおいては対象外です。(2011年11月現在)

(10)減衰特性(静特性)

ノイズ低減効果を表す目安で、規定の測定回路にフィルタを接続した場合の減衰特性を、横軸を周波数、縦軸を減衰量としてプロットしたものです。
測定方法を図2.10.1および図2.10.2に示します。減衰量は測定回路にノイズフィルタを挿入していない場合の出力U01と、ノイズフィルタを挿入した場合の出力U02の比であり、通常はその対数をとって[dB]で表記します。

  • ※減衰量20[dB]は、ノイズのレベルが1/10になることを意味します。同様に、40[dB]は1/100、60[dB]は1/1000になります。

図 2.10.1 減衰特性測定方法(単相ノーマルモード)

図 2.10.2 減衰特性測定方法(単相コモンモード)

図 2.10.3 減衰特性の例(NAC-16-472)

ノイズフィルタの減衰特性は測定回路の入出力インピーダンスの影響を受けます。
減衰特性(静特性)は、測定周波数によらず入出力インピーダンス50Ωという一定の条件下で測定したものであり、同一条件下で異なるフィルタの減衰特性を比較することができるため、減衰特性の良し悪しを検討するための一つの目安になります。
但し、実際の電子機器の電源ラインインピーダンスは装置によって異なり、またインピーダンス自体も周波数特性を持っており一定値ではありません。
そのため、カタログに記載の減衰特性(静特性)は、ノイズフィルタを実際の装置に取り付けた状態での減衰特性とは必ずしも一致しません。
また、フィルタを直列接続した場合も、個々のフィルタの静特性[dB]を単純に加算した特性にはならない点に注意する必要があります。

(11)パルス減衰特性

電子機器の誤動作の原因となる、電源ラインに重畳したパルス状のコモンモードノイズを、どの程度減衰できるかを表したものです。測定方法を図2.11.1に示します。
ノイズフィルタの入出力を50Ωで終端し、入力に規定のパルス波形を印加したとき、出力に現れるパルス電圧を測定し、横軸を入力パルス電圧、縦軸を出力パルス電圧としてプロットします。

図 2.11.1 パルス減衰特性の測定方法(単相)

図 2.11.2 パルス減衰特性の比較例

図2.11.2に、一般的なフェライトコアを用いたフィルタとアモルファスコアを用いたフィルタのパルス減衰特性比較例を示します。
アモルファスコアを用いたフィルタは入力パルスの電圧が高くなっても出力パルスの電圧が上昇しにくい(パルス減衰特性が良い)ことが分かります。
ノイズフィルタ(内部のチョークコイル)は、ある電圧時間積を超えるパルスノイズが加わると、チョークコイルのコアが磁気飽和を起こし、ノイズに対する抑制効果が著しく低下してしまいます。コアが磁気飽和する電圧時間積(V・T)は、以下の計算式で求めることができます。

(12)接地コンデンサコード

当社ノイズフィルタの多くは、接地コンデンサコードの指定によって様々な接地コンデンサ容量に対応することができます。選択可能な接地コンデンサコードは機種によって異なりますが、一例として当社EAPシリーズの接地コンデンサコードと減衰特性例を示します。

表2.12.1 接地コンデンサコード例(EAPシリーズ)
コード 漏洩電流(入力125/250V 60Hz) コンデンサ容量(公称値)
000    5μA /  10μA max なし
101 12.5μA /  25μA max  100pF
221   25μA /  50μA max  220pF
331 37.5μA /  75μA max  330pF
471   50μA / 100μA max  470pF
681 75.5μA / 150μA max  680pF
102 0.13mA / 0.25mA max 1000pF
222 0.25mA /  0.5mA max 2200pF
332 0.38mA / 0.75mA max 3300pF
472  0.5mA /  1.0mA max 4700pF

EAP(シリーズ名)-10(定格電流)-472(接地コンデンサコード)-□(オプション)

図 2.12.1 接地コンデンサコードとコモン減衰特性例

一般に接地コンデンサ容量を大きくするとコモンモードの減衰特性が良くなりますが、一方で漏洩電流が増大するトレードオフの関係があります。
接地コンデンサ容量の豊富な選択肢は、減衰特性と漏洩電流のバランスを考慮した最適なノイズ対策を可能にします。



ノイズフィルタの選定方法についてはフローチャートもご覧ください。

(13)オプション

当社ノイズフィルタは、オプションコードの指定によるカスタマイズが可能です。
設定されているオプションの種類は製品により異なりますので、カタログ等でご確認ください。各オプションの概要を以下にご説明します。

  1. DINレール取付タイプ:D

    制御盤などによく用いられるDINレールにワンタッチで取り付けできるタイプです。

    図 2.13.1 DINレール取付タイプの例

    なお、DINレールを介しての接地は適正なノイズ減衰効果が得られない場合がありますので、接地はノイズフィルタ本体の保護接地端子(PE)と接続してください。保護接地端子が2箇所ある製品の場合は、どちらか1箇所のみの接続でも使用可能です。

  2. 端子台タイプ:T

    インターフェースを端子台にしたタイプです(標準品はコネクタです)。

    図 2.13.2 標準品とオプションT品の比較

  3. 高透磁率チョークコイルタイプ(超低域高減衰):H

    ノイズ対策事例紹介へ(サーボモータのノイズ対策:Step1 低域伝導ノイズの対策 )


    チョークコイルのコアを高透磁率に変更したタイプです。
    標準品に比べ、低い周波数領域におけるコモンモード減衰特性が向上します。

    図 2.13.3 コモンモード減衰特性の比較例

  4. 六角穴付きボルトタイプ:S

    ノイズフィルタ使用事例紹介へ(大型端子台のねじ頭の十字穴潰れ(なめる)対策 )


    端子台のボルトを六角穴付きボルトにしたものです(標準品は十字穴付き六角ボルトです)。お使いの工具に合わせてボルトのタイプを選択いただけます。

    図 2.13.4 標準品とオプションS品の比較

  5. 接地コンデンサ切り離しスイッチ内蔵タイプ:G

    「欧州電源向け超高減衰タイプ」に接地コンデンサ切り離しスイッチを内蔵したタイプです。

    図 2.13.5 コモンモード減衰特性の比較例

    図 2.13.6 接地コンデンサ切り離しスイッチ内蔵タイプ(お客様で耐圧試験時にご使用)

  6. ノーマルモード減衰量向上タイプ:U

    ノイズ対策事例紹介へ(位相制御式温度コントローラーの伝導ノイズの対策 )


    定格電圧を250Vに変更したタイプです。

    図 2.13.7 ノーマルモード減衰特性の比較例

  7. 欧州電源向け超高減衰タイプ:L

    図 2.13.8 コモンモード減衰特性の比較例

  8. 高入力電圧タイプ:F

    定格電圧を500VAC/600VDCに変更したタイプです。


なお、オプションコードは組合せが可能です。
詳細はお問い合わせください。

ノイズフィルタの選定方法についてはフローチャートもご覧ください。



ノイズフィルタについて

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